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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)5381号 判決

昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件原告

同年(ワ)第一三七九四号事件反訴被告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 大原誠三郎

同 中尾淳子

昭和六一年(ワ)第五三八一号事件原告 乙山一郎

右法定代理人親権者 乙山春子

右訴訟代理人弁護士 河本仁之

昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件被告

同年(ワ)第一三七九四号事件反訴原告

昭和六一年(ワ)第五三八一号事件被告 丙川松夫

右訴訟代理人弁護士 吉永多賀誠

同 竹田章治

主文

一  被告は、原告甲野花子に対し、金一九五二万七七四一円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告乙山一郎に対し、金一七八三万一三一九円及びこれに対する昭和六一年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件)

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 原告甲野花子の本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告甲野花子の負担とする。

(本案に対する答弁)

1 原告甲野花子の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告甲野花子の負担とする。

(昭和六一年(ワ)第五三八一号事件)

一  請求の趣旨

1  主文第二項同旨。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告乙山一郎の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告乙山一郎の負担とする。

(昭和六〇年(ワ)第一三七九四号事件)

一  反訴請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し、金二五五万二八〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文第三項同旨。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件、昭和六一年(ワ)第五三八一号事件)

一  請求原因

1  訴外亡甲野太郎(以下「亡太郎」という。)は、昭和五六年八月一三日、次のとおりの内容の遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

(一) 亡太郎は原告乙山一郎(昭和四七年一二月一八日生。以下「原告一郎」という。)を認知する。

(二) 亡太郎の財産は妻である原告甲野花子(以下「原告花子」という。)と原告一郎とに二分の一ずつ相続させる。

(三) 被告を本件遺言の遺言執行者に指定する。

2  亡太郎は昭和五九年五月一八日死亡し、同年一〇月一六日、本件遺言書の検認手続が行われ、被告は直ちに本件遺言の遺言執行者に就任することを承諾した。

3  被告は、遺言執行者に就任後、同月一七日、本件遺言に基づき原告一郎の認知の届出手続を行った。

4  被告は、遺言執行者に就任後、被相続人亡太郎の全相続財産を被告の占有管理下に置いた。

5  被告は、右4の全相続財産のうち、別紙財産目録(以下「別紙目録」という。)(A)及び(B)記載の有価証券及び預金を、いずれも同目録記載の各年月日に処分ないし解約し、その各々についてそれぞれ同目録記載の金額の現金を取得した。

6  原告花子と同一郎の親権者乙山春子との間には、昭和六〇年四月一〇日、被相続人亡太郎の相続財産についての遺産分割協議が成立した。被告が処分ないし解約した前項の相続財産は、同目録(A)の財産が原告花子に、同目録(B)の財産が原告一郎にそれぞれ分割され、各原告が取得したものである。

7  (被告の相続財産に対する管理権の欠如)

(一) 被告は、前記4のとおり亡太郎の相続財産をその管理下に置いたが、右行為は、そもそも当初から何らの権限なくして行われたものというべきである。その理由は、以下のとおりである。

すなわち、遺言執行者は、遺言者の遺言によって示された意思を実現するために、「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」(民法一〇一二条一項)を有するものであるから、当該遺言の内容に応じてその執行に必要な一切の行為をする権利義務がある反面、当該遺言の執行に必要な限度でしか行為をする権利義務を有しないものというべきである。

ところで、本件遺言は、(1)原告一郎を認知する、(2)亡太郎の財産は妻である原告花子と原告一郎とに二分の一ずつ相続させる、(3)被告を本件遺言の遺言執行者に指定する、というものである。

まず、右(1)については、遺言による認知であるから、戸籍法六四条の規定により、遺言執行者は、右届出をする権利義務のみを有するものというべきである。

次に、右(2)については、相続分の指定にすぎず、遺言執行者に遺産分割の実行まで委ねたものではないことはその文言上明らかである。そうすると、亡太郎の相続財産については、遺言を執行する余地はなく、何らの執行を要せずして相続開始と同時に原告両名の二分の一ずつの共有となり、それによって遺言の内容が実現されたものということができる(遺産分割の実行は、相続人間の協議によってされ、協議が調わない場合にも審判による分割によって最終的に実現されるから、遺言執行者を必要とするものではないと解すべきである。)。

結局、被告は、遺言執行者として、原告一郎の認知の届出をする権限を有するのみで、亡太郎の相続財産に関する管理、処分については、当初から何らの権限も有しないものである。

したがって、被告が亡太郎の相続財産をその管理下においた行為は、何らの権限なくして行われたものというべきである。

(二) 仮に、被告が亡太郎の相続財産を管理し始めた当初遺言執行者として右財産を事実上管理する何らかの権限を有していたとしても、前記6のとおり昭和六〇年四月一〇日原告両名の間に適法に遺産分割協議が成立したのであるから、遺言執行者の職務はすべて終了したものであって、被告はいかなる意味においても遺言執行者としての相続財産の管理権を有するものではなく、相続財産を相続人である原告両名に返還する義務を負うものである。

すなわち、被告は既に遺言執行者ではなく、遺言執行者であった当時に管理を開始した財産について原告両名に返還すべき義務は個人である被告が負担すべきものである。

8  よって、被告に対し、主位的に不当利得返還請求権、予備的に受取物引渡請求権(民法一〇一二条二項、六四六条一項)に基づき、

(一) 原告花子は、別紙目録(A)記載の同原告取得分の相続財産の処分(解約)価額合計金四六〇九万七七四一円から返還済みの価額金二六五七万円を控除した返還未了分の価額金一九五二万七七四一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一〇月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、

(二) 原告一郎は、原告両名に対する引渡未了財産の価額は三五六六万二六三九円を下らないものとして、その二分の一に当たる金一七八三万一三一九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  原告花子の訴えについての被告の本案前の主張

被告は、遺言執行者としての相続財産に対する排他的管理権(民法一〇一二条一項)に基づき亡太郎の遺産を管理しているのであるから、相続人である原告花子には相続財産の管理権がなく、同原告は本件訴えにつき当事者適格を有しない。したがって、原告花子の本件訴えは不適法である。

すなわち、遺言につき遺言執行者がある場合には、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務は独り遺言執行者のみに帰属し(同法一〇一二条一項)、その反面、相続人は相続財産についてその処分の権限を失い(同法一〇一三条)、その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず、右の限度で、遺言執行者は相続財産に関する訴訟につき当事者適格を有し、他方、相続人は当事者適格を有しない。

本件における被告の遺言執行者としての職務権限もまた、右のとおりであって、その職務は原告一郎の認知届だけで終了するものではない。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

被告の本案前の主張はすべて争う。

請求原因7(被告の相続財産に対する管理権の欠如)において述べたとおり、亡太郎の相続財産について、被告はいかなる意味においても遺言執行者としての管理権を有するものではなく、他方、原告花子は、遺産分割協議により取得した相続財産について、全面的な処分管理権を有するものである。

四  請求原因に対する答弁

1  請求原因1ないし5は認める。

2  同6は不知。

仮に原告ら主張のような遺産分割協議が行われたとしても、かかる分割協議は無効である。すなわち、本件のように遺言によって分割指定がされ、遺言執行者が存する場合には、遺産の分割は遺言執行者の専権に属するところで、相続人が行い得るものではないから、相続人間の遺産分割協議は無効である。

3  同7は争う。

被告は、被相続人である亡太郎の遺言執行者として、その相続財産を管理している者であり、被告個人としては原告らに対し何らの義務ないし責任を負担していない。

すなわち、本件遺言においては、遺産分割方法は二分の一ずつと指定されており、いわゆる分割指定がされている。かかる場合においては、相続財産が遺言者の死亡とともに相続人の共有に属することとなったとしても、遺言執行者による分割がないかぎり相続人の相続財産の相続部分は確定しないし、遺言の内容は実現されず、遺言執行者の任務は終了しない。両相続人間の具体的な相続財産の分割は相続人間の協議によって成立するものではなく遺言執行者の分割によるのであって、遺産が相続人の共有になったからといってそれだけで当然に遺言内容の実現となる訳ではない。

したがって、本件においては、遺言執行者の任務は現実に進行中でその任務は終了していないのであって、被告は現在遺言執行者の地位を喪失していない。

(昭和六〇年(ワ)第一三七九四号事件)

一  反訴請求原因

1  反訴被告が昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件において反訴原告個人を訴えたのは、不法な訴え提起であって、不法行為を構成する。

すなわち、反訴原告はは亡太郎の遺言執行者として行為をしたもので個人として行動したものではないから、反訴被告としては、遺言執行につき反訴原告の遺言執行者としての行為について責任を問うのであれば、遺言執行者たる反訴原告を訴えるべきであって、反訴原告個人を訴えるべき理由はないのにもかかわらず、故意に反訴原告個人を訴えたもので、その訴えは不法な訴え提起である。

2  反訴原告は、この不法な訴えに応訴するため、弁護士吉永多賀誠との間に訴訟委任契約を締結し、同弁護士に対して手数料及び謝金各金一二六万六五〇〇円の合計金二五三万三〇〇〇円を支払う旨約し右金額の債務を負担するとともに、訴訟費用(印紙代)金一万九八〇〇円を納入することを余儀なくされ、右合計額金二五五万二八〇〇円の損害を被ったものである。

3  よって、反訴原告は、反訴被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金二五五万二八〇〇円及び不法行為の後である昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する答弁

1  反訴請求原因1は争う。

反訴原告の亡太郎の相続財産に対する管理占有は、本訴請求原因7のとおり、管理占有開始の当初から、仮にそうでなくても、少なくとも遺産分割協議成立以後は、遺言執行者の管理権に基づくものではない。本訴請求に係る別紙目録記載の処分前の引渡未了財産については、遺産分割協議成立後反訴被告において返還を請求しても反訴原告は一切これに応じていないのであり、これは遺言執行者の名の下に反訴原告個人が不当に留置し利得しているものというべきである。

2  同2は不知ないし争う。

第三証拠《省略》

理由

第一昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件、昭和六一年(ワ)第五三八一号事件について

一  まず、原告花子の訴えに対する本案前の主張について判断する。

1  亡太郎が昭和五六年八月一三日本件遺言をし、昭和五九年五月一八日死亡したこと及びそのころ被告が本件遺言の遺言執行者に就任することを承諾したことは、当事者間に争いがない。

そして、原告花子の本件訴え(原告一郎の訴えも同様)が、亡太郎の相続財産の引渡しに代わる価額の返還ないし賠償を求めるものであって、亡太郎の相続財産の管理に属するものであることは、本件請求原因事実の主張によって明らかである。

そこで、亡太郎の相続財産について、相続人である原告らの管理処分権(当事者適格)を判断するに当たっては、その前提として、本件遺言の内容に照らし、遺言執行者としての被告にゆだねられた職務権限の内容及び範囲、特に右相続財産に関する管理処分権の有無を論ずる必要がある。

2  遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するものであるが(民法一〇一二条一項)、遺言の執行としてすることのできる行為は、もとより無限定のものではなく、当該遺言の具体的内容に従いこれを実現するために必要な範囲に限定され、遺言執行者としては、相続財産に関する行為であっても右必要な限度を超えてこれをすることができないのは当然である。

これを本件遺言についてみるに、その内容が、(一)原告一郎を認知する、(二)亡太郎の財産は妻である原告花子と原告一郎とに二分の一ずつ相続させる、(三)被告を本件遺言の遺言執行者に指定する、というものであることは、当事者間に争いがない。

そこで検討すると、(一)は、遺言により認知をする場合であるから、遺言執行者は、戸籍法六四条の規定に従い所定の届出をする権利義務を有するとともに、右届出をすれば右遺言の執行は終り、他に何らの行為もすべき余地を残さないものというべきである。

また、(二)は、相続分を指定したにすぎず、特に分割方法等を指定する趣旨の文言も存しないことからすると、遺言執行者に具体的な遺産分割の権限を与えたものでないことは明らかである(本件遺言において遺言執行者を置いたこと自体遺産の具体的な分割の実行を遺言執行者にゆだねた趣旨と解すべきであるということもできない。)。

そうすると、亡太郎の相続財産については、右遺言により、相続開始と同時に原告両名が各二分の一の持分をもってこれを共有することとなったものであり、これを各持分に従って分割することは、右両名の協議にゆだねられ、又は遺産分割の審判によって実現されるべきものとなったというべきである。したがって、本件遺言中、右(二)については、遺言執行者がこれを執行する余地はないものと解すべきである。

そうすると、被告が本件遺言につき遺言執行者として有する権限は、原告一郎の認知の届出をすることのみに限られ、亡太郎の相続財産に関する管理、処分については、被告は当初から何らの権限も有しないものというべきである。

3  右のとおりであるから、相続人である原告両名の右相続財産に対する管理処分権は、遺言執行者たる被告の存在によっても、相続開始の当初から何ら制約を受ける余地はなかったものというべきである。

そうすると、原告両名の本件訴えは、それが前示のようなものである以上、原告らの有する相続財産の管理処分権に基づくものということができ、したがって、原告両名につき本件訴えにおける原告としての訴訟追行権(当事者適格)を肯認すべきである。

4  以上の次第で、原告花子の本件訴えは、適法であり、被告の本案前の主張は採用することができない。

二  そこで、原告両名の各本案請求の当否について判断することとする。

1  請求原因1ないし5の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  同6(遺産分割協議の成立)の事実について判断するに、《証拠省略》を総合すると、右事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告は、右遺産分割協議は無効であると主張するので、この点につき判断するに、前記一2に説示したとおり、本件遺言中(二)は、相続分の指定にすぎず、遺言執行者に遺産分割の権限を与えた趣旨ではないことはその文言上明らかであるから、亡太郎の相続財産については、遺言を執行する余地はなく、何らの執行を要せずして相続開始と同時に遺言の内容が実現されたものということができる。したがって、遺産分割の実行に関しても、遺言執行者を必要とするものではなく、第一次的には相続人間の協議によってされるべきものであることは通常の場合と何ら異なるところがなく、本件遺産分割協議の効力を否定する理由はない。

3  そこで、被告の遺言執行者としての相続財産に対する管理権の有無について判断する。

本件遺言の内容にかんがみれば、前記一2に説示したとおり、被告は、遺言執行者として、原告一郎の認知の届出をする権限を有するのみで、亡太郎の相続財産に関する管理処分については、当初から何らの権限も有しないものというべきである。

したがって、被告が亡太郎の相続財産をその管理下に置いた行為は、そもそも当初から何らの権限なくして行われたもの、すなわち法律上の原因を欠くものであったというべきである。

4  別紙目録(A)及び(B)の相続財産の処分(解約)価額のうち、被告から原告両名に既に返還された分の金額は、《証拠省略》を総合すると、原告花子に対しては金二六五七万円、同一郎に対しては金二七二六万円であることが認められる。右事実によると、前記処分(解約)価額のうち返還未了分の価額は、原告花子分については、前記目録記載の総計額金四六〇九万七七四一円から右返還済みの価額金二六五七万円を控除した残額である金一九五二万七七四一円であること、原告一郎取得分については、同目録記載の総計額金四五五二万二二四三円から右返還済みの価額金二七二六万円を控除した残額である金一八二六万二二四三円であることをそれぞれ認めることができる。

したがって、本訴請求は、右各返還未了分の価額について、原告花子においてその全額である金一九五二万七七四一円を、同一郎においてその一部である金一七八三万一三一九円をそれぞれ訴求するものであるということができる(原告一郎の請求は、算定根拠が異なるにすぎないと解される。)。

5  以上のとおりであるから、別紙目録(A)及び(B)記載の各相続財産について、不当利得返還請求権に基づき、その引渡しに代わる価額(換金相当額)の返還未了分の返還を求める原告両名の各主位的請求は、いずれも正当である。

第二昭和六〇年(ワ)第一三七九四号事件について

一  反訴請求原因1のうち、反訴被告が昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件において反訴原告個人に対して訴えを提起した事実は、当裁判所に顕著である。

そこで、右訴えの提起が、反訴原告の主張するように不法(違法)な訴え提起と言えるか否かについて判断する。

亡太郎の相続財産に対する反訴原告の管理占有は、前記第一の一2及び二3に説示したとおり、右管理占有の当初から、遺言執行者としての管理権に基づくものではなく、何らの権限なくして行われたものというべきである。したがって、反訴被告が昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件(本訴)において主張する反訴原告の行為は、亡太郎の相続財産につき遺言執行者として行為をしたものではなく、個人として行動したものというべきであって、反訴被告において、反訴原告個人が何ら権限なくして管理占有下に置いた相続財産について、反訴原告個人を被告として、不当利得返還請求権に基づき引渡しに代わる価額の返還を求める訴えを提起したことは、前記第一に説示したとおり、正に正当であって、何ら違法の問題を生ずるものではない。

二  右のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、反訴原告の反訴請求は失当である。

第三結論

以上の次第で、原告両名の昭和六〇年(ワ)第一二四四六号事件及び昭和六一年(ワ)第五三八一号事件の各主位的請求はいずれも理由があるからこれを認容し、被告(反訴原告)の昭和六〇年(ワ)第一三七九四号事件反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 近藤崇晴 岩井伸晃)

〈以下省略〉

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